洞窟壁画に落書き 1万年前の「未開の地」 狩猟採集生活の遺産 先史時代の宝庫 東カリマンタン(上)

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産候補に挙がる東カリマンタン州東クタイの洞窟壁画が、赤いスプレーによる落書きで塗りつぶされていることが分かった。約5千〜1万年前の先史時代の壁画や遺跡、多様な生態系が手つかずで残された未開の土地で、過去の人類社会を知る鍵となる貴重な場所だが、地元では開発計画も持ち上がる。文化遺産の調査活動を追った。

 落書き被害は、文化遺産保存局(BPCB)の東カリマンタン州サマリンダ支部が19日に発表した。バトゥ・ニェレ山のリアン・バンテン・アピル洞窟にある壁画一面で見つかった。
 赤いスプレーの落書きには「Johan」という名前とおぼしきものも見られ、「観光客やそのガイドがやった」「ジャワツバメが集まる洞窟で高値で売れるツバメの巣を住民らが取り合っている」など、憶測が飛び交う。
 洞窟は石灰岩の山を熱帯雨林が取り囲む手つかずの自然が残り、発掘のための移動さえ困難な場所。今回落書きが発見されたリアン・バンテン・アピル洞窟も、高さ約150メートル地点にある。
 同地の洞窟壁画の研究を続けているバンドン工科大学(ITB)デザイン・コミュニケーション・ビジュアル・マルチメディア学科・文化芸術研究員のピンディ・スティアワン氏は、観光地化が全くされていない「知られざる場所」のため、観光客が訪れることはほぼないと話す。
 「どこかから情報を手にし立ち入った人がいるかもしれないが、保存状態の良い遺跡にもかかわらず、SNSやブログなどネット上でこれまで一つも紹介されていないのはおかしい。現地の住民の誰かがやったとしか考えられない」。犯人は調査中で不明だとしながらも、観光客やそのガイドによる犯行を否定した。
 落書きされた壁画の修復方法のめどは立っておらず、現在はボロブドゥール遺跡の保全に携わっている石の専門家らと協議を進めているという。

■42カ所の洞窟
 洞窟壁画があるのは、石灰岩などからなるカルスト地帯「サンクリラン〜マンカリハット」で、七つのカルスト山が連なる10万ヘクタールの広大な地域。
 早くとも1万年以上前からその後何千年にもわたり、先史時代を生きた人類の居住地や墓のほか、朱色の手形や動物などさまざまな洞窟壁画や岩絵が残る。計42カ所の洞窟や窪みから岩絵や壁画、木材でつくられた棺おけなどが次々と見つかり、その数は千を超える。
 ここで狩猟採集生活を営んでいた部族が何千年にもわたって描き残されたものとされている。
 インドネシア政府は昨年1月、同地一帯のうち9万ヘクタールをユネスコの世界文化遺産の暫定リストに登録した。ユネスコ側も視察団の派遣に意欲的だという。
 一方で地元では観光地化や石灰岩の採石などの開発計画も持ち上がっている。自然に守られてきた人類の奇跡をこれからどう保護するのか。大きな課題が立ちはだかる。(毛利春香)(つづく)

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