【アルンアルン】最賃制変更と失業率

 インドネシアでは2030年ごろまで総人口に占める若年層の割合が増え続けるとされる。このいわゆる人口ボーナス期の長さがインドネシア市場の魅力なのだが、政府からみれば、増え続ける労働力人口の雇用をどう確保するか、という課題に直面し続ける期間でもある。
 実際に、昨年の失業率は前年同月比でみて増加に転じており、6%を超えた。足元では景気が低迷しているため、失業率のさらなる悪化が懸念される。
 ここで興味深いのは、新たに導入された最低賃金制度の影響である。従来は政労使の協議を経て決定されていたが、昨年10月、経済成長率と物価上昇率をもとにその引き上げ幅を算出する、という方法が導入された。政府は、これにより最低賃金の急激な上昇に歯止めをかけられる、と期待している。
 もし、賃金上昇の大部分が最低賃金の引き上げにより引き起こされているのであれば、今回の制度変更により、経営を圧迫するような人件費の高騰は抑えられると予想されよう。とはいえ被雇用者の生活水準が悪化するような賃金抑制は避けなければならない。
 では、失業率の上昇を招くことなく、どの程度までなら賃金の上昇は許容できるのだろうか。
 ここで経済学の道具立てを用いて単純化して考えるならば、賃金の上昇率が労働生産性(例えば労働者1人当たりでみた国内総生産)の成長率を上回るかどうか、が分岐点となるだろう。実際に過去のデータでみてみよう。
 まず、民主化後15年間の労働生産性の平均成長率を計算すると、ほぼ年率3%(物価調整済み、以下同)となる。
 次に、賃金と失業率の推移を政権ごとに確認してみると、04年までの5年間の平均で、最低賃金は年率9%、賃金は5%近く増えていた。賃金の上昇率が労働生産性の成長率を上回っていたこの期間に、失業率は10%まで上がり続けた。
 一方、09年以降の5年間では、平均して、最低賃金は年率5%増、そして、賃金は労働生産性の成長率を下回る2%の上昇にとどまった。この期間に失業率は低下し続け、6%を下回ることになる。
 今回の制度変更が実際に雇用に及ぼす影響については、これから検証が進むであろう。
 労働法の改正という、前政権が断念したより抜本的な制度変更に手をつけられるかどうか、といった点とあわせて、今後も政府の雇用面での取り組みやその影響について注意深く見ていく必要がある。(JETROアジア経済研究所地域研究センター研究員)

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