憎悪表現の規則強化 国家警察通達 宗教・民族差別を阻止

 国家警察は特定の宗教や民族などを攻撃し、憎悪を増大させる「ヘイトスピーチ(増悪表現)」を規制する通達を出した。刑法など現行法の運用を強化するもので、違反者への厳重措置を後押しする。しかし規制対象は不明瞭で、ネット上の表現などに対する規制強化により、言論の自由の侵害や恣意(しい)的な運用につながると懸念する声もある。
 通達では、ヘイトスピーチを「個人または集団を差別し、扇動することで憎悪を増大させる行為」と定義。差別対象は民族、宗教、宗派、信仰、人種、社会階層、肌の色、民族、性別、身体障害、性的指向を挙げた。規制対象となるのは演説や横断幕・垂れ幕、ソーシャルメディアネットワーク、公共の場所での意見表明(デモ)、宗教講話、印刷・電子メディア、パンフレットとした。
 国是「多様性の中の統一」の順守を掲げ、宗教冒とくや中傷、扇動などを規制する刑法や、ネット上の扇動などに罰則を定めた情報・電子取引法(2008年施行)を運用面で強化するのが目的だ。 
 背景には、宗教や民族間の対立が激化するケースで、差別を助長するヘイトスピーチが発端となっていることが挙げられる。パプア州トリカラ県で7月、キリスト教徒が少数派のムスリムの集団礼拝を襲撃した事件や、アチェ州シンキル県で今月、ムスリムの住民が教会を襲撃、放火した事件などでは、携帯電話のSMSやソーシャルメディアで異教徒を侮辱し、襲撃を扇動するメッセージが拡散された。
 また近年、イスラムの「異端」と認定されたアフマディヤや少数派シーアの信者に対し、排斥運動や暴力行為が各地で多発しているにもかかわらず、警察が放置しているとの批判が高まっていた。
 バドロディン・ハイティ国家警察長官は通達について「全国各地の警察官がヘイトスピーチに対して断固たる措置を講じる必要がある」と強調し、現行法の運用を後押しするのが目的と説明した。イスラム過激派組織もソーシャルメディアを使ったヘイトスピーチやテロ要員勧誘などを行っており、警察はネットの監視も強めていきたい意向だ。
 人権団体スタラのヘンダルディ氏は、警察は宗教対立などに絡む暴力阻止に弱腰だったが、通達が運用されることで、対立をあおる行為を未然に防ぐことにつながると評価。国内最大のイスラム団体、ナフダトゥール・ウラマ(NU)幹部のヘルミ・ファイサル・ザイニ氏は「通達を歓迎したい。NUもネット上での他宗教冒とくを厳しく批判してきた」と述べた。
 一方で慎重な運用が必要との声もある。国家人権委員会のロイチャトゥル・アスウィダ委員は「言論の自由を侵害する可能性もある。国民への周知を徹底するのと同時に、警察の恣意的な運用を防ぐ必要がある」と指摘。IT専門家のルビー・アラム氏は「規制対象を明確化すべきだ。通達は現行法から踏み込んだ内容ではなく、具体的に何を『憎悪』とみなすか説明が必要だ」と強調した。(藤本迅)

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