【アルンアルン】内憂外患の経済

 ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権1年目の経済は、かなり苦しい滑り出しである。先週、中央統計局(庁)は今年第2四半期の実質GDP(国内総生産)成長率が4.67%で、第1四半期の4.72%を下回ったと発表した。上半期の成長率は4.70%となった。今年の年間成長率は昨年の5.02%に届かないだろうとみる予測が増えている。
 なぜ成長が減退しているのか。大きな理由の一つは、資源ブームの終焉(しゅうえん)である。中国の旺盛な需要にけん引された2000年代の国際商品価格の高騰と資源貿易の量的拡大は、11年をピークに価格下落と貿易縮小へと反転した。インドネシアは、あれよという間に世界最大の石炭とパーム原油の輸出国になったが、12年からは総輸出と経済成長率が低下し始めた。とくに中国向けの輸出は、14年、15年(1〜5月)ともに前年比22%減と急ブレーキがかかっている。
 振り返ってみれば、前ユドヨノ政権の「成長の10年」には、資源ブームによる成長底上げ分が織り込まれていたと考えられる。とすれば、現政権期は、前政権の年平均6%近い成長よりやや低い5%台が現実的な成長水準かもしれない。
 成長減退のもう一つの理由と目されるのが、ジョコウィ政権の動きの遅さである。政権の初動は悪くなかった。燃料補助金を削減し、その4倍もの財政投資予算276兆ルピア(約2.5兆円)をインフラ投資などのために確保した。前政権が成しえなかった快挙だと高く評価された。
 だが、問題は財政投資の実行率の低さである。第1四半期はわずか3%。与野党陣営の対立で予算の国会通過が2月まで遅れたため、これはいたし方ない面もあった。ところが、上期が終わっても11%にすぎない。燃料補助金が62%も支出されているのと好対照である。財政投資こそが成長下支えの頼みの綱であることは政権も重々わかっている。にもかかわらず、動きが鈍い。その鈍さが、第2四半期の投資の伸びを低下させ、成長を鈍化させてしまった。
 そもそも素早い動きが得意ではないインドネシアがいま直面しているのは、資源輸出に傾斜してしまった産業貿易構造を作り変えようという時間のかかる課題である。そのためにジョコウィ政権は、前政権以上に積極的に投資を喚起し、内需主導の成長を実現させなければならない。この国の歩みは常に長い時間軸でみていくほかはないだろう。(佐藤百合・JETROアジア経済研究所上席主任調査研究員)

◇ アルンアルン(Alun alun)とはインドネシア語で「広場」の意味です。今月から月1回のペースで原則月曜に掲載します。筆者は、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所の研究者の方々で、インドネシア・周辺地域の問題を論じます。題字は、古都ジョクジャカルタにある王宮南広場のシンボルである2本の菩提樹を図案化しました。

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