経済統合まだ遠く 「移動の自由実現を」 期待と課題浮き彫り 世界経済フォーラム ASEAN

 21日に閉幕した世界経済フォーラム東アジア会議で議論が集中したテーマは今年末に発足する東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体=AEC=の目指す形だ。6億人を上回る巨大生産基地と市場に対する期待を再確認する場となった一方、「人の移動の自由」実現の遅れなど課題も浮き彫りになった。

 「物品の関税撤廃はかなり進んだが、手続きの問題など非関税障壁はまだ残っている。サービス面の自由化はまだまだこれからだ」。マレーシアのムスタパ貿易産業相は経済統合の進行具合を説明した。
 AECは各国が合意した分野ごとに統合を進めている。サービスや航空自由化、製品規格の統一など関税以外の分野でも統合はこれからだ。
 「経済共同体で目指す形にはまだ遠い」(フィリピンのセサール・プリシマ財務長官)、「2015年末にプラットフォームができて、そこから自由化が徐々に進んでいくイメージ」(エアアジアのトニー・フェルナンデス社長)というように2015年は「AEC発足」という意味で象徴的な年だが、実際にEUのような高度な経済共同体になるには時間を要するとの認識が共有された。 
 経済界から特に実現を急いでほしいと要望が多かったのは人が自由に行き来して労働できる「労働者の移動の自由」だ。
 電子機器の受託製造サービス(EMS)大手のフレクトロニクス(シンガポール)のレイモンド・ビンガム会長は関税や非関税障壁の撤廃により、ASEANを一つの国と捉えて各国で生産の役割分担が可能になると期待する一方で「人が自由に動けないと安定した品質の製品を作れない」と指摘する。
 問題は生産設備の扱いや、現地の従業員に技術の指導ができる技能を持つ外国人の自由な移動と労働。これが実現しなければ、単一の生産基地としてのメリットは縮小するという。
 「労働者の自由な行き来でアイデアが生まれる」(比複合企業SMインベストメンツのテレシタ・シー・コソン副会長)、「ASEAN域外の人が一つのビザで域内10カ国を移動できる制度の創設を望む」(トニー社長)と人の移動の自由による経済的利益を強調する意見が目立った。
 労働者の完全な移動の自由は、自国労働者の失業の懸念があるため、及び腰の国が多い。
 リッポーグループのジョン・リアディ取締役はインドネシアを含む域内各国が外国人労働者への規制を強める傾向にあることへの懸念を表明した。
 ムスタパ貿易産業相は、まず弁護士や会計士などの専門職に相互認証制度を導入することから自由化を進めると説明した。

■供給網の中で発展
 「自動車産業は難しいがタイヤ産業なら誘致可能」(ミャンマー複合企業サージ・プン・アンド・アソシエイツのサージ・プン会長)。ASEANは国ごとの発展に格差が大きく、ミャンマーやラオスなど後発国にとってAECは不利益になるとの懸念がある。
 だが域内でサプライチェーン(部品供給網)の構築が容易になることで、後発国でも産業を育成する機会にもなる。ミャンマーの場合、産出する天然ゴムを生かしてタイヤを製造し、タイやインドネシアなどの自動車製造国への輸出が考えられるという。
 ただプン会長が「教育が欠如していることは大きなハンデ」と認めるように、後発国では人材不足が深刻だ。外国企業に勤めるミャンマー人に国内企業で働いてもらったり、職業訓練学校を設けたりして人材育成を強化する取り組みを続けるという。

■世界の「主要国」に
 ASEANの10年後の見通しについて質問を受けたバンバン財務相は「米国とEU、中国、日本に並ぶ『主要国』になる」と語る。
 ただ「各国に多様な背景があるASEANはコンセンサス(総意)方式で物事を決める」(ムスタパ貿易産業相)ためEUに比べ意志決定が遅い。その問題意識はあり、事業環境の整備のために事務局の権限強化を進めるという。
 ASEANの中銀設立や通貨統合についてもプリシマ財務長官は「各国の経済水準に差がありすぎるため、近い将来はない」と断言した。
 経済面での統合を優先するあまり「人権問題など社会や文化の問題は残る」(ムスタパ貿易産業相)のも事実。「域内全体でもっと人権や表現の自由を教育するべき。それがイノベーションにもつながる」(トニー社長)との意見もある。
 ムスタパ貿易産業相はASEAN統合の最終形は「域内の人が自分をASEAN人と感じるようになること」で、市民の理解を得ながら進めることが重要だと強調する。経済統合で得た利益を、いかに各国民に目に見える形で分配できるか。それが統合を成功させる鍵になりそうだ。(堀之内健史、写真も)

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