ＫＰＫ副委員長を逮捕　闘争民主元議員が告発　「弁護士時代に偽証教唆」　国家警察　長官人事で対立激化

　国家警察刑事局は２３日、汚職撲滅委員会（ＫＰＫ）のバンバン・ウィジョヤント副委員長が弁護士時代に担当した憲法裁審査で関係者に虚偽証言を唆した疑いがあるとして、同副委員長を逮捕した。告発したのは与党闘争民主党（ＰＤＩＰ）の元国会議員。ＫＰＫはブディ・グナワン次期国家警察長官の汚職容疑を公表し、ジョコ・ウィドド（通称ジョコウィ）大統領が就任を延期させたばかり。長官人事を主導したＰＤＩＰと国家警察がＫＰＫへの攻勢を強めている。
　バンバン委員長は２３日午前７時半ごろ、西ジャワ州デポックの学校に自家用車で子どもを送った後、帰宅途中に身柄を拘束された。容疑は、中部カリマンタン州西コタワリンギン県知事選の結果をめぐる２０１０年７月の憲法裁審査で、証人に偽証を指示したというもの。
　バンバン副委員長の依頼人と知事選で争った闘争民主党（ＰＤＩＰ）のスギアント・サブラン元国会議員（任期０９〜１４年）が国家警察に告発した。国家警察によると、今月１５日に告発を受理したという。
　長官人事は、候補者に汚職疑惑が取りざたされていたにもかかわらず、資産状況などの調査を経ずに就任が決まった。これに反発したＫＰＫは１３日、贈収賄に関わったとするブディ容疑者の疑惑を公表した。
　同容疑者はＰＤＩＰのメガワティ党首（元大統領）の元警護官。２２日にはＰＤＩＰのハスト・クリスティアント幹事長代理が会見を開き、ＫＰＫのアブラハム・サマッド委員長が副大統領候補になるために同党幹部と接触していたことを暴露した。今回の虚偽証言告発もＰＤＩＰ関係者が発端だ。
■「報復措置」に非難
　ジョコウィ大統領は同日午後、西ジャワ州ボゴールの大統領宮殿でサマッド委員長やバドロディン・ハイティ国家警察副長官と協議。大統領は「警察とＫＰＫの双方が法律に則って行動し、職務を遂行する際に摩擦を生んではならない」と指示した。
　これに先立ち、記者会見したロニー・ソンピ国家警察報道局長は「彼が虚偽証言を依頼したと疑うに足る固い証拠がある」と強調する一方、「捜査の焦点はバンバン副委員長の疑惑であり、ＫＰＫという組織とは無関係だ」と説明した。
　一方、ＫＰＫのアドナン・パンドゥ・プラジャ副委員長は「ブディ容疑者の事件は純然たる法執行の問題と位置づけており、他に目的はない」と強調。警察に対しては「特定の団体の利益にくみすることはないと願っている」と述べた。
　同日、南ジャカルタ・クニンガンのＫＰＫ庁舎前には文化人や活動家、宗教指導者、元国会議員ら１００人以上が集結した。故アブドゥルラフマン・ワヒド大統領の次女イエニー氏やデニー・インドラヤナ元法務人権副大臣、喜劇役者ブテット・カルタラジャサ氏らが座り込みや演説を展開。「ＫＰＫに対するＰＤＩＰと警察の報復措置だ」と厳しく非難し、「ＫＰＫを救え」と国民にＫＰＫ支持を呼びかけた。（道下健弘、写真も）

「ヤモリ対ワニ」再発　強固な既得権益

　汚職撲滅委員会（ＫＰＫ）は警察や検察より強大な権限を持つ特別捜査機関。２００３年の設立以来、ＫＰＫは「汚職の巣窟」にメスを入れる一方で、既得権益を固守する当局側から反撃を受け、緊迫化する事態が生じてきた。
　０９年には、ススノ・ドゥアジ国家警察刑事局長が指揮する捜査班が、ＫＰＫのビビット、チャンドラ両副委員長を収賄容疑で逮捕。ススノ氏がＫＰＫを弱小のヤモリに、警察を強力なワニにたとえたため、「ヤモリの反撃」を擁護する市民運動が拡大した。
　ユドヨノ大統領の調停を経て２人は保釈されたが、後に実業家アンゴド受刑者が警察や検察幹部と結託し、自身の汚職追及を阻止するため２人の収賄をねつ造したことが判明した。警察がススノ氏を解任し事態収束を図ったが、ススノ氏が一転して警察の同僚や部下の内部告発を展開。ススノ氏の側近が不審死するなど泥沼化した。
　１２年には、ＫＰＫに出向中の警察官が上官の不正を指摘。ＫＰＫが警察施設を家宅捜索したことに警察が激怒し、ＫＰＫ本庁を急襲した。この時も警察は出向警察官の８年前の事件を蒸し返して拘束理由にした。
　急襲騒動の２カ月後、警察を怒らせる発端となった運転教習機材調達事業の汚職事件で、ＫＰＫは元国家警察交通局長のジョコ・スシロ受刑者を収賄容疑で逮捕。だが同時に不正蓄財疑惑が浮上した他の警察幹部は追及されずに封印された。（配島克彦）