初音ミク、海外初エキスポ バーチャル・アイドルに熱狂 開催都市選定で世界最多の投票数

 初音ミク、ジャカルタに登場―。日本生まれのバーチャル・アイドルで、世界中に熱狂的なファンを持つ初音ミクの世界初となる総合イベント「MIKU EXPO」(主催クリプトン・フューチャー・メディア=本社札幌)が28、29の両日、中央ジャカルタ・スナヤンのジャカルタ・コンベンションセンター(JCC)で開かれた。会場にはイラスト、フィギュアなど初音ミクのキャラクターが展示され、ライブでは2次元アイドルの歌とダンスに若者たちが酔いしれた。
 ライブ会場のメインステージには大きな半透明なスクリーンがかけられ、大音響とともに初音ミクが登場した。
 観客は一斉に総立ちとなり、手に持つライトスティックを振る。バーチャルアイドルの映像の動きに合わせて「ミク!」と声をかけ、リズムに合わせて体を動かす。定番曲からインドネシアの曲も含めて2時間で30曲を披露した。
 バリから来た男子大学生のスドウィジャさん(20)は「想像よりもすごかった。生の人間が踊っているようだ」と興奮した面持ちで話した。39万〜139万ルピア(約3400〜1万2千円)のライブチケットは2日間完売だった。
 会場内にも限定グッズを買うための長い列ができた。Tシャツ、パンフレット、ステッカー、ペンなど3万〜56万ルピアのグッズが飛ぶように売れていく。場内に設置されたホワイトボードには、ファンがメッセージを書き込んでいく。「ミク、ジャカルタにきてくれてありがとう」。
 初開催のエキスポの会場にジャカルタが選ばれたのは、クリプトン・フューチャー・メディア運営の海外向けサイトが実施した投票で、インドネシアファンからの投票が最も多かったからだという。また「フェイスブックの公式ページでもインドネシアのユーザーのアクセスが上位を占めている」(同社)。
 インドネシアでは以前から日本のアニメやコミック、コスプレの人気は高いが、初音ミクは一般の音楽ファンの間でも人気を獲得、自主ライブやDJのイベントなども盛んに行われている。
 「インドネシアのファンの熱さに驚きました」と話すのは中田大樹さん(26)。「トーキョー・オタク・モード」のブースでポスターやTシャツを販売した。「オンラインの動画配信で日本と同じ早さで初音ミクの情報が伝わる。日本文化が広まるのがうれしい」と話す。陳列したポスターは2日目午前で完売した。
 初音ミクのコスプレで来場する人も多い。バンテン州タンゲラン出身の会社員、ユナさん(25)は「コスプレが好きでファンになった。本当にインドネシアに来てくれるなんて」と喜ぶ。
 日本からもファンは訪れた。公式ツアーに23人が参加した。費用は1泊2日で約18万円。公務員の田中淳一さん(54)は「ライブパフォーマンスにひかれてファンになった。一つのカルチャーとして世界中に受け入れられる魅力があるのでは」と話した。
 主催者の伊藤博之代表取締役は「インドネシアではクリエーターたちによって自作曲が多数作られ、自国の文化として初音ミクが受け入れられている。初音を通じて文化交流に貢献できたらうれしい」と話した。

新世代のキャラクタービジネス イの若者も作品制作

 日本で生まれた初音ミクはSNS(ソーシャル・ネットワーク)や動画共有サイトなどを通じて、瞬く間にインドネシアを含む世界各地のファンの心をつかんだ。
 音楽評論家で「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」(太田出版)を出版した柴那典さんは「初音ミクは日本では定番となったが海外では新鮮味が強い」と語る。実態はボーカロイドという音楽ソフトだが、CDを買う人から、イラスト、フィギュア、コスプレを楽しむ層まで幅広いファンがいるのが特長、という。今後の海外展開については「日本のかわいいカルチャーは世界に浸透している。海外に売り込むというよりも海外のファンがSNSや動画共有サイトで先に見つけている」とした。 
 クールジャパン戦略推進事業を展開する経済産業省は「ボーカロイドはクールジャパンの一例。初音ミクは海外で展開するキャラクタービジネスの成功例となった」(クリエイティブ産業課)と期待を込める。
 今回ジャカルタが世界初のエキスポ開催地となった背景には、インドネシアの若いクリエーターたちが独自の初音作品を作り、日本や世界に発信してきたことがある。特に有名な制作チームがジャカルタの大学生ら7人で構成する「レッドシフト」。初音ミクの音声ソフトを駆使して作曲やアレンジを手掛ける。オリジナル曲の多くは日本語だ。メンバーの一人、アフダさん(22)は「初音ミクの音楽市場の中心は日本なのでそこで受け入れられるものを作りたい」と話す。「ニコニコ動画」(動画投稿サイト)でレッドシフトのオリジナル曲が放映されたこともあるという。
 初音ミクというキャラクターは、新しい世代の日本のポップカルチャーのアイコンとして広がっているようだ。(阿部敬一、アリョ・テジョ)

◇初音ミク

 クリプトン・フューチャー・メディアが2007年に企画開発したパソコン上で歌声を合成できるソフトの名称。ヤマハが開発した音声合成技術「VOCALOID(ボーカロイド)」で使用する。「バーチャルシンガー」としてキャラクター化された。設定は年齢16歳、身長158センチ、体重42キロで青緑色のツインテールが特徴。歌声は声優・藤田咲の声を元に作成。初音ミクを用いた動画が次々とウェブサイトに投稿され、世界中から支持を集める。11年米ロサンゼルスで初の単独ライブ。シンガポールなどでも開催。今回のエキスポは世界に向けた初の初音ミク総合イベント。

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